友人の著作の宣伝になってしまうんですが・・・。
終戦記念日ですが、あえて違う話題を。
私よりも20歳ばかり年長の友人、長岡由秀氏と久しぶりに話をした。
(20歳も年長の方を「友人」と呼称するのはいささか問題が
あるかもしれないが、この際独断的に「是」としちゃいます)
ちなみにその長岡氏は、一時期私の、「雇用主」
だった事もある。いや、氏の下でちょっとバイトした
だけなんですが
(ついでに、これは単なる偶然なのだが、氏は
私が通った大学の、同じ学部の先輩でもある)。
で、なんでも先日、初の著作を上辞したとの事で、一冊、拝受した。
それがこれ。画像ナシですんません。
![血の迷宮―生麦事件 血の迷宮―生麦事件](https://d.hatena.ne.jp/images/hatena_aws.gif)
- 作者: 長岡由秀
- 出版社/メーカー: 高城書房
- 発売日: 2006/05
- メディア: 単行本
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氏には失礼だとは思うが、実は最初はあまり期待していなかったのに、
読み始めると物凄く面白くて一気呵成に読破してしまった。
内容は、基本的に、「生麦事件」の下手人、として一般には定説となっている
薩摩義士、奈良原喜左衛門の弟である奈良原繁
の存在に焦点を当て、様々な歴史的第一次資料
(大久保利通の日記や奈良原家の人間の戸籍抄本等)
や二次資料(無数の歴史書)を駆使し、
「生麦事件」で最初に英国人に刀で斬りつけたのは
喜左衛門ではなく、
後に沖縄県知事まで勤める事になった繁の方ではないのか、
という疑念についての論考、となっているのだが、
単なる歴史の検証本であるにとどまらず、
倒幕・維新前後の複雑な時代を生きた
様々な人々への社会学的・集団心理学的アプローチ
にもなっており、
また、「薩摩藩=島津家」が作り上げた特殊な風土への
かなり深い考察にもなっていて、実に興味深い。
長岡氏の現在の職業は「古書店経営者」であって
(公式HPはこちら。http://www1.odn.ne.jp/~aak03650/)、
本職の歴史学者ではない。
そういう、いわゆる、
「アマチュア歴史家による論考文」というのは、えてして
歴史資料に書かれている事をすべて盲信していたり、
自説に都合の良いデータだけを採用する傾向にあったりして、
結果としてかなりイタイ事になるというか、
いわゆる「トンデモ本」に陥りがちな傾向が強いのだが、
「かなり信憑性の高い資料でも、そこに間違いが書かれている事は
しばしばある」
という氏の実に適切かつ絶妙にクールなスタンスにより生じる、
極めて慎重でありつつも
時には大胆でもある分析力のフィルター
を通して成立した本書は、
あたかも上質なミステリー小説のような、
読む者に心地よい知的快楽を与える
見事な作りになっている。
(ネットでも、ちょいとサーチしたら好意的評価を見つけました。
http://www.d5.dion.ne.jp/~ikeyoko/AB-HIBUN-Y.htm)
幕末期などの歴史に興味があったり、
「書物に書かれている事をただ盲信するのではなく、
それを手がかりに色々な事を自分で調べるのが好き」
な人には、文句なしにお勧めの一冊です。
で、長岡氏はこの論考書の執筆の為に3年以上も費やし、
「その間、他の仕事はほとんどできなかった」
そうで。
確かに、思えばここ数年ばかり、氏に会っても、いつもシリアスに
何かを考え込んでいる様な厳しい表情をしていた
(まあ元々私にとって氏は、「いささか狷介でもあり、
他人におべっかを使う様な
軽薄な性格ではない」、というイメージがあったのも事実だが)。
それが今日は随分と明るい雰囲気で、朗らかで快活な笑顔を終始浮かべていた。
「大きな一仕事」を終えた後の清々しさを、氏は今、身を以って実感しているのであろうか。
自分としては、
「本当にこの数年、これしかやってなかったのかな・・・・凄いな・・・・」
と、本書の読後に、長岡氏の測り知れない情熱(と知性)に畏怖の念を抱いた次第であったが。いやマジで。
まあ、実に面白い本です。
興味がおありの方は上記リンクからアマゾンのURLに飛んでみてください。
では本日の画像は当の、長岡由秀氏著、「生麦事件 血の迷宮」。
ちょっとおどろおどろしいレイアウトですが、
鹿児島の正史、ひいては日本の正史に真摯な疑問を
投げかける、良質な知的エンターティメントとしても充分に楽しめます。
資料的価値も非常に高い一冊。
でもこういう、「ちょい固い(と一般に思われがちな)」本って、なかなか売れないんですよな。
日本中の様々な読書人に期待したいものです。