友人の著作の宣伝になってしまうんですが・・・。

JosefK2006-08-15

終戦記念日ですが、あえて違う話題を。

私よりも20歳ばかり年長の友人、長岡由秀氏と久しぶりに話をした。

(20歳も年長の方を「友人」と呼称するのはいささか問題が

あるかもしれないが、この際独断的に「是」としちゃいます)

ちなみにその長岡氏は、一時期私の、「雇用主」

だった事もある。いや、氏の下でちょっとバイトした

だけなんですが

(ついでに、これは単なる偶然なのだが、氏は

私が通った大学の、同じ学部の先輩でもある)。


で、なんでも先日、初の著作を上辞したとの事で、一冊、拝受した。

それがこれ。画像ナシですんません。

血の迷宮―生麦事件

血の迷宮―生麦事件

氏には失礼だとは思うが、実は最初はあまり期待していなかったのに、

読み始めると物凄く面白くて一気呵成に読破してしまった。

内容は、基本的に、「生麦事件」の下手人、として一般には定説となっている

薩摩義士、奈良原喜左衛門の弟である奈良原繁

の存在に焦点を当て、様々な歴史的第一次資料

大久保利通の日記や奈良原家の人間の戸籍抄本等)

や二次資料(無数の歴史書)を駆使し、

生麦事件」で最初に英国人に刀で斬りつけたのは

喜左衛門ではなく、

後に沖縄県知事まで勤める事になった繁の方ではないのか、

という疑念についての論考、となっているのだが、

単なる歴史の検証本であるにとどまらず、

倒幕・維新前後の複雑な時代を生きた

様々な人々への社会学的・集団心理学的アプローチ

にもなっており、

また、「薩摩藩=島津家」が作り上げた特殊な風土への

かなり深い考察にもなっていて、実に興味深い。

長岡氏の現在の職業は「古書店経営者」であって

(公式HPはこちら。http://www1.odn.ne.jp/~aak03650/)、

本職の歴史学者ではない。

そういう、いわゆる、

「アマチュア歴史家による論考文」というのは、えてして

歴史資料に書かれている事をすべて盲信していたり、

自説に都合の良いデータだけを採用する傾向にあったりして、

結果としてかなりイタイ事になるというか、

いわゆる「トンデモ本」に陥りがちな傾向が強いのだが、

「かなり信憑性の高い資料でも、そこに間違いが書かれている事は

しばしばある」

という氏の実に適切かつ絶妙にクールなスタンスにより生じる、

極めて慎重でありつつも

時には大胆でもある分析力のフィルター

を通して成立した本書は、

あたかも上質なミステリー小説のような、

読む者に心地よい知的快楽を与える

見事な作りになっている。

(ネットでも、ちょいとサーチしたら好意的評価を見つけました。

http://www.d5.dion.ne.jp/~ikeyoko/AB-HIBUN-Y.htm


幕末期などの歴史に興味があったり、

「書物に書かれている事をただ盲信するのではなく、

それを手がかりに色々な事を自分で調べるのが好き」

な人には、文句なしにお勧めの一冊です。

で、長岡氏はこの論考書の執筆の為に3年以上も費やし、

「その間、他の仕事はほとんどできなかった」
そうで。

確かに、思えばここ数年ばかり、氏に会っても、いつもシリアスに

何かを考え込んでいる様な厳しい表情をしていた

(まあ元々私にとって氏は、「いささか狷介でもあり、

他人におべっかを使う様な

軽薄な性格ではない」、というイメージがあったのも事実だが)。

それが今日は随分と明るい雰囲気で、朗らかで快活な笑顔を終始浮かべていた。

「大きな一仕事」を終えた後の清々しさを、氏は今、身を以って実感しているのであろうか。

自分としては、


「本当にこの数年、これしかやってなかったのかな・・・・凄いな・・・・」


と、本書の読後に、長岡氏の測り知れない情熱(と知性)に畏怖の念を抱いた次第であったが。いやマジで。

まあ、実に面白い本です

興味がおありの方は上記リンクからアマゾンのURLに飛んでみてください。

では本日の画像は当の、長岡由秀氏著、「生麦事件 血の迷宮」。

ちょっとおどろおどろしいレイアウトですが、

鹿児島の正史、ひいては日本の正史に真摯な疑問を

投げかける、良質な知的エンターティメントとしても充分に楽しめます。

資料的価値も非常に高い一冊。

でもこういう、「ちょい固い(と一般に思われがちな)」本って、なかなか売れないんですよな。

日本中の様々な読書人に期待したいものです。